「専門家によると」
「テレビで言ってたけど」
「インフルエンサーが推奨してた」
現代人の会話は、こんな前置きで埋め尽くされている。
健康法も、投資戦略も、子育て論も、人生哲学さえも。
すべて他人の受け売り。
自分の意見のように熱く語るが、その実、一つも自分で考えたものはない。
権威への盲従システムの完成
なぜこうなったのか。
答えは簡単だ。
考えることを放棄したからだ。
朝のニュース番組で仕入れた情報を、そのまま職場で披露する。
SNSで見かけた健康情報を、検証もせずに実践する。
有名人の発言を、自分の価値観として採用する。
情報を消費するだけで、何も生産しない。
脳は完全な受信機と化している。
「〇〇大学の研究では」と言えば、誰も反論しない。
「医者が言ってた」と付ければ、正当性が担保される。
権威の看板を借りれば、自分で考える必要がない。
インフルエンサーの投稿をスクショして、それを自分の意見として拡散する。
いいねの数が、思考の代替物になった。
責任回避という甘い蜜
この生き方には、実に都合の良い仕組みがある。
自分で考えていないから、間違っても責任を取らなくていい。
投資で大損しても「あの専門家が推奨してたから」。
健康法で体調を崩しても「テレビで言ってたから」。
すべて他人のせいにできる。
「みんなもそう言ってる」という安心感。
多数派に属していれば、批判される心配もない。
思考停止は、実に快適な精神安定剤だ。
リスクを取らない。
責任も取らない。
ただ流されるだけ。
それを「情報収集力がある」と勘違いしている。
操り人形たちの末路
こうして、極めて操作しやすい大衆が完成する。
メディアが右と言えば右を向き、左と言えば左を向く。
今日は糖質制限、明日はオートファジー、来月は別の健康法。
振り回されていることにも気づかない。
借り物の投資話に飛びつき、高値で買って、安値で売る。
流行りの健康法を渡り歩き、結局何も改善しない。
他人の子育て論を真似して、自分の子供と向き合えない。
会話は同じフレーズの繰り返し。
「最近話題の」
「みんな言ってる」
「常識でしょ」
中身のない言葉が、空虚に響くだけだ。
自分の言葉を失った者たちへ
借り物の言葉で生きる人生。
それは、他人の人生を生きているのと同じだ。
自分で考え、自分の言葉で語ることができない人間は、もはや個人ではない。
集団の中の記号に過ぎない。
AIが人間の仕事を奪うと言われているが、真っ先に代替されるのはこういう人間だ。
他人の言葉をコピペするだけなら、AIの方が正確で速い。
だが本人たちは気づかない。
「情報通」
「物知り」
「教養がある」
と自己評価は高い。
他人の言葉のコレクションを、自分の知識だと信じ込んでいる。
自分の頭で考えることを放棄した時点で、その人間の成長は止まる。
あとは他人の言葉を借りて、他人の人生を模倣するだけ。
悲しいことに、本人たちは一丁前に思考したつもりになっているのだ。
これが、自分の言葉を持たない大人たちの末路である。

